副作用を防ぐための工夫は?

くすりを飲んでしばらくしたら、のどがひどく乾き、顔に少し湿疹が出ました。でも医師からは、1日3回きちんと飲むようにいわれています。  さて、こんなとき、あなたならどうしますか。「副作用がこわいので、飲むのをやめてしまう」、「病気を治したいので、医者からいわれたとおり、その後も飲み続ける」、どちらにするか迷うところですが、実は、両方とも間違いです。副作用を恐れて、くすりをやめてしまうだけでは、病気の治療になりません。たまたま患者の胃の具合がよくないために、少しの湿疹が出たもので、くすりの副作用ではないことがあります。また病気によっては、ある程度の副作用が起こることは承知のうえで、くすりを使う場合もあるのです。  反対に、そのままくすりを飲み続けた場合は、どうなるのでしょうか。  くすりの副作用は、1回目は軽くても、2回、3回と飲み続けると、急激に悪化する傾向があり、危険性も高くなります。アスピリンのような一般的なくすりでも、副作用で胃痛を起こした人が飲み続けていると、胃潰瘍になることすらあります。  では、副作用を早くみつけ、悪化を未然に防ぐには、どうしたらいいのでしょうか。副作用は、体の部分でいうと皮膚・全身・胃腸系などに生じやすく、初期の段階でさまざまな症状となってあらわれます。眠気、のどの乾き、発疹、かゆみ、胃痛、吐き気、めまい、けいれん、下痢などです。これらのなかには、患者が自分で対応できるものもあります。ひどい眠気におそわれたら、仮眠をとる、車の運転はしない。のどの乾きには、水分を多めにとるといった対処法です。  しかし、副作用と思われる初期の症状が治まらない場合、くすりの使用を一時中止し、すぐに医師や薬剤師に相談するのが、もっともよい方法です。副作用の原因を調べたうえで、くすりを替えるか、副作用をおさえるくすりを併用するか、といった判断をする必要があるからです。また、ほとんどの製薬会社には、くすりに関する相談窓口が設置されていますので、わからないことがあればたずねてみましょう。  患者自身が、使っているくすりの特性をよく理解すること。そして医師・薬剤師・製薬会社などから情報を得ながら、副作用をコントロールしつつ病気を治す。それが上手なくすりの使い方だといえます。  一番いけないのは、患者が自分勝手な判断で、別のくすりを使うことです。副作用で胃痛が起きたので、市販の胃薬を一緒に飲むといったことは、さらに大きな副作用を引き起こしかねないので、絶対にやってはいけません。

症状がなくなったら、薬をやめてもいいでしょうか?

病院で処方されたくすりを使っている場合、仮に症状が軽くなっても、勝手にやめてはいけません。急にくすりをやめると、リバウンド現象といって、反動からかえって症状が悪化し、危険なことがあるからです。  たとえば、高血圧のくすりを飲んでいる人が、血圧が下がり、気分がよくなると、すぐにやめてしまうことがあります。すると、血圧が反動的に上昇し、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしかねません。潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍など)のくすりでも、痛みがおさまったからとやめてしまうと、残った潰瘍部分から出血することがあります。  抗生物質の場合には、くすりによって細菌が弱ると、症状が軽くなるので治ったように思いがちです。ところがくすりをやめると、残った細菌がふたたび増え始めることがあります。しかも細菌が、抗生物質に抵抗力をもつようになり、以前より治りにくくなることすらあるのです。  医師は、リバウンド現象を防ぐため、患者の症状が一時的によくなっても、くすりの量を減らしたり、弱いくすりに替えながら、段階的にやめる方法をとります。  自分勝手にくすりをやめることは、こうした治療のさまたげとなり、自分の病気を自分で悪くすることにもなるのです。  一方、使用しているくすりが市販薬の場合には、症状がおさまったらやめてもさしつかえありません。市販薬は一般に効き目がおだやかで、やめたときの影響も少ないからです。ただし市販薬にも、リバウンド現象がまったくないわけではありません。市販薬であってもやめるときには自分の体と相談し、ぶりかえさないように注意する必要があります。

子供に、大人用の薬の量を減らして、飲ませたいのですが?

くすりの世界では昔から、子供には、大人用のくすりを転用してきました。子供だけに特有の一部の病気を除くと、たいていの場合は、大人のくすりの量を減らして、対応してきたのです。その背景には、「子供は、大人のミニチュア(小型)である」という考え方がありました。  たとえば、子供に与えるくすりの量を経験的に割り出した「ハルナックの小児薬用量表」では、6か月児で5分の1、1歳児で4分の1、3歳児で3分の1、7歳半児で2分の1、12歳児で3分の2といった数値が、一つの目安として示されています。  これはけっして間違いではないのですが、最近は「子供は、大人を小さくしただけのものではない」という考え方へと、大きく変化しつつあります。というのも、子供はくすりを分解したり排泄したりする、肝臓や腎臓の機能が、大人よりずっと弱いのです。また、くすりに対する感受性が高く、血液や脳へくすりが移動しやすいという特徴もあります。  そのため、大人には安全性が証明されたくすりでも、子供には重大な副作用を起こすことがあるのです。つまり、量だけの問題ではなく、くすりの成分や体内での吸収の仕方についても、検討する必要があることがわかってきたのです。  一例をあげますと、欧米では家庭の常備薬となっているアスピリンは、子供の急な発熱にもよく利用されてきました。ところが、インフルエンザや水痘にかかった子供が、アスピリンが引き金となって、意識障害やけいれん、肝障害といった重大な副作用(ライ症候群)を起こす例がいくつも発見されたのです。その結果、現在では12歳以下の子供には、副作用の少ない別の解熱剤を使用することが多くなりました。  この例からもわかるように、大人用のくすりの量を減らして子供に与えることは、間違いとはいえないのですが、ときに思わぬ副作用を引き起こすことがあります。また錠剤などは、割ってしまうと、くすりの性質自体が変わってしまうこともあります。  子供が急に具合が悪くなったとき、親はあわてて、自宅にある大人用のくすりを使いたくなります。しかし、緊急の場合を除いて、できれば医師の診断を受け、子供にとってより安全なくすりを利用したいものです。

幼児に薬を飲ませるとき、気を付ける点は?

幼稚園に通うぐらいの年齢 (4~5歳) の子供に、直径6mm程度の錠剤を与えると、飲みこめない子が出てきます。直径が9mmを超えると、子供たちの4分の3が飲みこめなくなるそうです。  そこで乳幼児向けには、錠剤やカプセル剤ではなく、粉薬、ドライシロップ剤、シロップ剤(水薬)、坐剤などが工夫されています。医師や薬剤師と相談して、子供に合ったものを選ぶのが、上手な利用法です。  粉薬やドライシロップ剤は、1回分を水や白湯で溶いて、スプーンで少しずつ飲ませます。粉薬は、水や白湯でやわらかめに溶き、小さなダンゴ状にして指先にのせ、子供の上アゴや内頬(ほほ)の奥にこすり付ける方法もあります。  いずれの場合も、口のなかにくすりが残らないように、あとで水や湯冷ましを飲ませておきます。  赤ちゃんの場合、いつも飲んでいるミルクに、くすりを混ぜて飲ませると簡単なように思いがちですが、これには問題があります。ミルクによって効かなくなるくすりもありますし、ミルク自体の味が変わってしまうためミルク嫌いの原因となりやすいのです。シロップ剤は、幼児には飲みやすいくすりです。しかし、ビンごと飲ませると、むせたり、だ液でくすりを汚染させる原因になります。1回分を別の容器に取り、スプーンかスポイトで少しずつ飲ませるとうまくいきます。  ただし、シロップ剤は飲みやすいだけに、幼児が勝手にビンを開け、飲んでしまう事故がよくあります。幼児の手の届かない場所に保管することも大切です。  こうした飲み薬は、子供を寝かせたままの姿勢で使用すると、むせたり、気管に入る原因ともなるので、体を少しでも起こして飲ませることも、忘れないようにしましょう。  また、赤ちゃんが泣いて嫌がっているときにも、むりやり飲ませてはいけません。やはり気管に入ってしまい、呼吸困難におちいることもあるからです。  飲み薬がどうしても使えない場合には、坐薬もあります。坐薬は、日本ではそれほど一般的ではないので、親のほうに抵抗があるかもしれませんが、飲み薬を吐いてしまうようなときには便利です。ただ、子供がりきむと出てしまうこともあるので、お尻に入れたら、少しのあいだ押さえておくのがコツです。

妊娠中に、薬を飲んでも大丈夫ですか?

 妊娠すると、「胎教にいいから」とクラシック音楽を聴く人がいます。安産を祈願して戌(いぬ)の日の帯祝いをしたり、神社でお守りをもらう人も少なくありません。音楽やお守りが、生まれてくる赤ちゃんに少しでもいい影響を与えてくれるようにと、だれもが願っているからです。ところが、くすりが胎児にもたらす影響については、案外、知られていない面が多くあるようです。たとえば、妊娠中のもっとも重要な時期(初期)に、実に42%もの妊婦がなんらかのくすりを飲んでいた、というデータがあります(虎の門病院による面談調査)。  なぜ、こんなことが起こるのでしょうか。胎児の体の主な器官(神経・心臓・消化器官・手足など)は、最終月経の開始日から28 ~50日のあいだにでき上がります。それだけに、この時期は、母親の飲んだくすりが、胎児にとくに影響を与えやすいのです。  ところが、妊娠のごく初期にあたるため、ほとんどの女性は妊娠に気付かなかったり、確信のないまま、かぜ薬や鎮痛剤などを飲んでしまいます。その結果、もっとも危険な時期に、くすりを使用したことになってしまうわけです。したがって、妊娠中はもちろんのこと、妊娠の可能性のある女性は、その前からくすりには十分に注意をしておくことが大切です。  では、妊娠初期を過ぎれば、くすりの影響がないのかといえば、けっしてそうではありません。とくに鎮痛剤は、妊娠後期に入ってからも影響を及ぼしやすく、子宮を収縮させたり、胎児の呼吸中枢に作用して、仮死を引き起こしたり、流産や早産の原因ともなりかねません。町の薬局で買える大衆薬でも、同様の副作用をもたらすことがあります。妊娠中は、どの時期であろうと勝手にくすりを使用せず、かならず医師や薬剤師に相談する必要があります。  ところで最近は、情報過多の時代のせいでしょうか、くすりの影響を心配し過ぎる人もみかけます。ぜんそくやてんかんなどの持病があり、くすりを飲んでいた女性が、妊娠に気付いて急にやめてしまったりします。すると、母体がバランスをくずし、胎児まで危険な状態におちいることがあります。  こうした場合にも、やはり自己判断はしないで医師や薬剤師に相談し、影響の少ないくすりを使うといった方法をとることが必要です。おなかの赤ちゃんにとっては、母体の健康こそがもっとも大切なものなのです。  妊娠中でも、ビタミン剤ぐらいは大丈夫だろうと思っている女性は、けっこう多くみられます。ところがアメリカでは、妊娠初期にビタミンA剤を多量に使用した結果、胎児の奇形が起こった事例が報告されています。ビタミンAそのものは必要ですから、大量にとるのはやめ、食べ物から自然にとるようにすれば安心です。また最近は、女性の喫煙者が増え、妊娠中でもタバコを吸う姿をみかけます。胎児へのタバコの影響としてはっきりわかっているのは、出産した赤ちゃんの平均体重が少ないこと、そして早産や流産がタバコを吸わない人の約1.5倍にもなることです。これは、タバコに含まれるニコチンなどが、胎児の酸素不足を引き起こすためといわれています。

母乳をあげているとき、薬を飲むと、赤ちゃんに影響しますか?

赤ちゃん(新生児)が、1日に飲む母乳(ミルク)の量は、多い子だと 800 ~1,000ccにもなります。普通の牛乳パック1本分に近い量ですから、小さな体のわりに食欲旺盛ですが、すべての栄養をそこからとっているのですから、当然なのかもしれません。母乳には、栄養分だけでなく、病原菌を殺すさまざまな抗体が含まれています。赤ちゃんは、母乳を飲むことで、病気から身を守る力を自然に取り入れているのです。  ところが母親がくすりを飲むと、その成分は血液から母乳へと入り、残念なことに赤ちゃんにも影響を与えることがあります。くすりの種類にもよりますが、母乳に入るのは母親が飲んだくすりの量の1%以下といわれます。それでも、赤ちゃんはくすりを処理する能力がまだ弱いうえ、血液中のタンパク質が少ないために、薬物作用が強く出る傾向があり、とくに注意する必要があります。  市販の大衆薬なら、効き目が弱いので大丈夫と思うかもしれませんが、よく使われる解熱剤・鎮痛剤・催眠剤などの成分には、母乳へと入りやすいものがたくさんあります。それらの成分が、ほとんどのかぜ薬に含まれていることを考えれば、大衆薬といえども安易な使用がいかに危険か、想像がつくでしょう。  授乳中の母親が病気にかかり、病院でくすりをもらう場合、医師から「しばらく母乳を与えないように」と言われることがあります。母乳で赤ちゃんを育てようとしている母親には、ちょっとつらい選択かもしれません。くすりの種類によっては、赤ちゃんへの影響の少ないものに替えてもらうこともできるので、まず相談してみることです。けれども、母体の治療を優先し、どうしてもそのくすりを使わざるをえないこともあります。赤ちゃんへのくすりの影響を考えると、無理をせず、医師の指示をしっかり守ることが大切です。  妊娠や出産というと、女性へのアドバイスばかりが多くみられますが、男性にも注意すべき点がたくさんあります。たとえば、男性がくすりを使用している場合、その種類によっては精子に蓄積され、妊娠したときに胎児に影響を与えることがあります。したがってくすりを使用しているときは、影響がないかどうかを医師に相談し、一時的に避妊することも考えておく必要があるのです。また、男性の喫煙も問題となっています。赤ちゃんのいる家庭では、夜になるとベランダや家の外でタバコを吸う男性が「ホタル族」と呼ばれ、話題になったことがあります。しかし、出産後だけでなく、実は女性が妊娠中から、男性のタバコは間接的に胎児に影響を与えていて、低体重児や未熟児が生まれる一因になると指摘されています。

お年寄りには、副作用が起こりやすいのは、本当ですか?

年をとると子供に返る、といわれます。たしかに、くすりと体との関係にも、よく似たことがいえます。たとえば、幼児は、まだ病原菌に対する抵抗力が弱いため、病気にかかりやすい面があります。お年寄りも、臓器(特にすい臓)の老化から免疫力が低下し、肺炎をはじめ、いろいろな病気に感染しやすくなります。また、幼児は、肝臓や腎臓の働きがまだ弱いため、くすりを分解・排泄する機能が十分ではありません。お年寄りもまた、臓器が老化し、体の水分量も減少しているため、くすりの作用が強く出る傾向がみられます。くすりを排泄する腎臓の機能だけをみても、80歳になると、30歳の人の半分程度にまで低下するといわれ、それだけくすりが体内に残りやすくなります。その結果、お年寄りには、幼児と同じように、くすりの副作用が起こりやすくなるのです。  そこで副作用を防ぐため、お年寄りにはくすりの量を減らしたり、弱いくすりが出されます。一般に、70歳を過ぎたら、くすりの量は成人の3分の2でいいといわれます。病院ではさらに、患者それぞれの体力や病歴を考え、くすりが渡されています。  こうした事情を考えずに、効き目が弱いからといって、くすりを飲み足したり、市販のくすりを併用したりすることは、危険なので絶対にやってはいけません。  もう一つ、お年寄りに副作用が起こりやすい原因は、複数のくすりの飲み合わせによるものです。お年寄りのなかには、いくつもの病院に通い、くすりをたくさんもらっている人が少なくありません。  ある医師が、そうしたお年寄りの一人に、どうしても必要な1~2種類のくすりを除いて、ほかは全部やめるようにアドバイスしたところ、驚くほど健康になったというエピソードさえあります。まるで笑い話のようですが、そのお年寄りは病気そのものよりも、くすりの飲み合わせによる副作用で、体調をくずしていたのです。  年をとると、さまざまな病気によって、くすりを必要とすることが多くなります。けれども同時に、体がくすりに弱くなっていることも忘れないようにして、上手にくすりと付き合っていきたいものです。

お酒と薬は、相性がよくないというのは、本当ですか?

 「酒は百薬の長」といわれます。アルコールも、くすりと同じように体への作用をもっていますから、ある程度のお酒によって体の調子がよくなることは、実際にありえます。けれども、お酒の効用は別として、アルコールがくすりと相性がいいかどうかというと、むしろその反対といわざるをえません。たとえば昔から、「大酒飲みには、麻酔がかかりにくい」といわれてきました。お酒に強いかどうかは、その人の体のなかに、アルコール脱水素酵素MEOS(ミクロゾームエタノール酸化系)、アセトアルデヒド脱水素酵素などの、アルコール分解酵素が多いかどうかによって決まります。  つまり大酒飲みとは、アルコール分解酵素をたくさんもっている人、ということができます。この酵素は、アルコールだけでなく、ほかのくすりの代謝・分解にも作用します。そこで実際に、大酒飲みの人に麻酔を使っても、くすりが必要以上に分解されてしまい、なかなか効き目があらわれないことがあります。その結果、痛さをこらえながら手術にのぞむといった哀れなことが、ときには起こりえるのです。  しかし、それよりもっと問題なのは、くすりとお酒を一緒に飲んでしまう人が、けっこう多いことです。くすりとアルコールを一緒にとると、肝臓は両方を同時には処理できないため、アルコールのほうを優先的に分解しようとします。そのぶん、くすりに対する解毒作用が遅れ、くすりは通常よりもずっと高い濃度のままで肝臓を通過し、血液中に入り、全身にまわってしまうのです。  また理由はわからないのですが、アルコールが、とくに睡眠薬などのくすりの作用を著しく増強するともいわれています。場合によっては、命にかかわるような事態も生じます。糖尿病のくすりのなかにも、お酒を飲んでいるときに使うと、重大な低血糖を起こすものがあります。  精神安定薬や鎮痛薬なども、お酒と一緒に飲むと効果が異常に高まり、こん睡状態におちいることもあるので非常に危険です。西部劇の名作『シェーン』で知られるアメリカの映画俳優アラン・ラッドや、『オズの魔法使い』でアカデミー賞を受けたミュージカル女優ジュディ・ガーランド(ライザ・ミネリの母親)は、アルコールと睡眠薬(抗不安薬)を併用し、急死したといわれています。  くすりは、絶対にお酒で飲まないこと。酒席などの付き合いがあるときには、医師や薬剤師に、お酒を飲んでも大丈夫かどうか、確認してからにすることです。

食べ物が、薬に影響を与えることはありますか?

うなぎに梅干し、スイカに天ぷら……といえば、昔からよく知られた「食べ合わせ」、つまり、おなかをこわしやすいといわれる組み合わせです。こうした食べ合わせには、あまりはっきりした根拠はないようですが、くすりと食べ物とのあいだには、一緒に食べるのを避けたほうがいいものがあります。  たとえば納豆は、健康食品の代表でもあるのですが、心筋梗塞や脳梗塞のくすりのワルファリンを飲んでいる人には、ちょっと問題があります。納豆に豊富に含まれているビタミンKには、血液を固める作用があります。一方、ワルファリンは、血液を固まりにくくする作用があるため、両方が相いれないのです。  ビタミンKを含む食べ物には、ほかにホウレンソウ、ブロッコリーなどの緑黄色野菜がありますが、納豆だけがとくに問題となるのは、納豆菌が体内でビタミンKを次々とつくるからなのです。実際、ワルファリンを飲んでいる人が、週2~3回ほど納豆を食べただけで、くすりの効き目がなくなってしまうほどです。  赤味の魚に含まれるヒスチジンや、チーズのチラミンといったアミノ酸も、くすりとの食べ合わせが問題となることがあります。ヒスチジンやチラミンが体内に蓄積すると、結核の治療薬イソニアジドや抗うつ剤のサフラジンを使ったとき、高血圧や頭痛を引き起こし、ときに死に至ることも。かつて日本では、イソニアジドを使っている結核患者が赤味魚の刺身を食べて、副作用が起きたことがありました。  また、チーズをよく食べるフランスでは、サフラジンを使っている患者に副作用が起こり、チーズ症候群と呼ばれ、話題となったこともあります。  そのほか、高タンパクの食べ物は、血圧降下薬をはじめとしたくすりに作用し、効き目を強めたり、弱めたりすることが多いともいわれています。  食べ合わせの副作用がはっきりわかっているくすりについては、病院で医師や薬剤師から、アドバイスを受けます。  けれども、食べ物とくすりの関係は、患者の体質や症状、年齢などによっても、それぞれ違いがあります。初めてのくすりを使うときには、食べ物に注意する必要がないかどうか、自分からもたずねておくと安心です。

ビタミン剤も、くすりの一種?

 脚気(かっけ)といっても、若い人にはどんな病気かわからないでしょう。反対に中高年の人なら、健康診断のときに足を組んで膝の下のくぼみを軽く叩き、「足がポンと跳ね上がらなければ脚気だ」と言われたことを懐かしく思い出すかもしれません。  脚気は、日本では奈良時代から知られていて、当時は足の病気と考えられたために、脚気といわれたのです。実際には、末梢神経や循環器系の障害で、重症になると心臓がどきどきして息苦しくなり、最後はもがき苦しみながら死に至る、悲惨な病気でした。  江戸時代には、江戸や大坂などの大都市で、若者を中心に発病する者が続出したため、「江戸疫」、あるいは「三日坊主」とも呼ばれ、非常に恐れられました。三日坊主とは、発病すると短期間で亡くなるという意味です。明治になってからも、年間1万人が脚気で命を落としていて、現代の交通事故にも匹敵する規模でした。  脚気の原因が、白米のとり過ぎによる栄養障害、つまり裏返せば、米ぬかなどに多く含まれるビタミンB1の不足によるものとわかったのは、明治の末のことです。日本の鈴木梅太郎やポーランドのフンクが、米ぬかからビタミンB1の分離に成功し、世界で初めてビタミンの存在が発見されたのです。  ビタミンの発見は、脚気を征服したばかりでなく、人間にとって3大栄養素(タンパク質・脂肪・糖質)のほかに、必要とする微量物質があることがわかった点でも、非常に意義のあるものでした。その後、ビタミンの研究開発は急速に進み、現在では20種類以上のビタミンが発見されています。  ビタミンの多くは、食べ物からとることができます。けれども、ビタミンCのようにストレスや喫煙によって大量に消費されたり、病気の治療に使ったくすりによって分解されるものもあります。不足すると、さまざまな欠乏症を起こすため、その場合にはビタミンをくすりとして補う必要があります。  その一方で最近は、ビタミン剤を過信し、ビタミンだけ飲めば栄養を補えるという、大変な誤解さえ生まれています。とくに母親が、子供にまともな食事を与えず、ビタミンを飲ませてすませていたような、ひどい例もみつかっています。車でいえば、ガソリンはあくまでも3大栄養素であり、ビタミンやミネラルは潤滑油にすぎないのです。またビタミンには、AやD、Eのように体内に蓄積し、大量にとると重大な副作用を起こすものがあります。実際、現代の日本人にはビタミンD過剰症が多くなっているといわれます。  ビタミンもくすりであり、使用法を間違えると副作用もあることを忘れずに、上手に使いましょう。

ダイエットのために、下剤 を使うことに問題はありませんか?

「拒食症で亡くなった最初の有名人」、そう形容されたのは、カレン・カーペンターでした。  『遥かなる影』『愛のプレリュード』『イエスタディ・ワンス・モア』など、世界的な大ヒット曲を次々と生み出したカーペンターズのカレン。彼女は、ミュージシャンとして絶頂期を迎えながら、その一方で肥満に対する強迫観念にとらわれ、ダイエットにとりつかれていったといいます。カレンが、ダイエットのために使用していたのは、瀉下剤(下剤)でした。それも大量の。亡くなる少し前、治療のために訪れた病院の医師に、彼女は「一晩で80錠から90錠の瀉下剤を使っている」と告白しています。拒食症におちいったカレンは、長い闘病のあと、カムバックをしようとした矢先、1983年に急死しました。  日本の女性たちのあいだでも、ダイエットに瀉下剤や利尿薬などを使う人がみられます。瀉下剤や利尿薬を使用すると、体から便や水分などが排泄されるため、体重が減ったように感じられます。しかし、それは一時的なものにすぎません。食べると、体重が戻るので、またくすりを使いたくなる…その繰り返しで、くすりの量が増え、慢性化していきます。その結果、栄養障害を起こしたり、くすりの副作用によって体調をくずしたり、くすりへの依存症におちいります。ときには、カレンのように命を落とす危険もあるのです。  瀉下剤も利尿薬も、 当然のことですが、 ダイエットのためのくすりではありません。 そうしたくすりを連用すると、体に慣れが生じて効果が弱まり、いざ必要とするときに効かなくなってしまうこともあります。  本当の肥満を解消するためのダイエットならば、病院に行けば、肥満症向けのくすりがあります。病的な肥満は、糖尿病や自律神経失調など、さまざまな病気を併発する可能性があり、治療が必要だからです。けれども日本女性のダイエットのほとんどは、平均体重程度では満足できず、さらに体重を減らそうとするものだといわれます。そこには、むしろ心の問題があるようです。  ダイエットに瀉下剤や利尿薬を使うことは、健康な人が解熱薬を飲んでむりやり熱を下げようとしているのと同じで、害こそあれ、よいことは何もありません。そうしたくすりの使い方が、いかに怖いか、カレン・カーペンターは身をもって教えてくれています。

麻薬は、なぜ危険なのですか?

麻薬の一つコカインのもつ効用に早くから注目した医師に、ジグムント・フロイトがいました。のちに精神分析の分野で大きな功績を残す、あの精神病理学者フロイトです。フロイトはあるとき、友人の一人フライシェルに、コカインをすすめました。フライシェルは、術後の経過が悪く、痛み止めにモルヒネを使ううち中毒になり、苦しんでいたのです。フロイトは、モルヒネ中毒の治療にコカインが有効だと考えていました。実際、コカインを使い始めると、フライシェルの中毒症状は急速におさまり、期待どおりの成果が得られたのです。ところがしばらくすると、今度はコカイン中毒がフライシェルをおそいました。フロイトは、コカインのもつ中毒性に気が付かなかったのです。フライシェルは、ひどい中毒症状のなかで、ついに命を落としました。結果としてフロイトは、自分のせいでコカイン中毒の第1号患者を生み出したうえ、親しい友人を失ってしまったのです。  モルヒネやコカインに限らず、ほとんどの麻薬には、危険な副作用がみられます。一時的には幸福感が得られても、知らないうちに精神的にも肉体的にもくすりに依存するようになり、やめられなくなって、やがて中毒におちいるのです。コカイン中毒の場合、皮膚のなかを虫がはうような不快感におそわれ、自分の体を傷つけたり、人の声や姿が見えるような妄想や幻覚におびえ、ついには精神錯乱をきたし、ときにはフロイトからコカインをすすめられた友人のように、死に至ることもあります。コカインは、あまり副作用が強いので、現在では医療用としてもほとんど使われていないほどです。アヘンの成分であるモルヒネは、コカインよりもっと依存性(特に生理的依存性)が強いといわれます。使い始めると、次第に量を増やさないと効かなくなる強い耐性があることから、乱用することになります。大量に用いると、呼吸がおさえられ、こん睡状態におちいり、ついには呼吸麻痺で死亡する結果を招くことになります。しかも、こうした麻薬の多くは、一度習慣になると、やめるときにも「禁断症状」があらわれ、激しい苦しみにおそわれます。映画『黄金の腕』のなかで、フランク・シナトラ演じるカード賭博のディーラーが、禁断症状を克服しようと苦しみもがく悲惨な姿を、おぼえている人もあるかもしれません。現在、日本では若者を中心に、麻薬や、同じような症状を示す覚せい剤(LSDやスピードなど)の不法使用が増加しています。麻薬による幻覚から、ときには凶暴な犯罪が起こることもあり、大きな社会問題ともなっています。  麻薬を気軽に使うことが、どれほど恐ろしいことか・・・フロイトが友人を失った悲劇を忘れないようにしたいものです。  コカインの誤使用で友人を失ったフロイトは、医師としての業績面でも、さらなる不運に見舞われました。フロイトに刺激され、ともにコカインの研究を始めた眼科医のコラーが、コカイン溶液を使った局所麻酔手術に成功し、ひとあし先に大評判をとってしまったのです、それもフロイトが休暇で旅行中に。友人の死との二重のショックを受けたフロイトは、打ちのめされ、失意のうちにコカインの研究をあきらめました。しかし、そのことがフロイトに、本業である精神分析の仕事に専念させる結果となり、やがて夢の精神分析などで知られる偉大な業績を残すことにつながったのです。コカインの失敗は、フロイトにとってまさに「いいくすりになった」のです。